ここまでいろいろと、下澤先生の技術のお話をしてきましたが、ここで一つ“意識”のお話をしたいと思います。

 

　気功教室の生徒や、私の施術を受けているクライアントは、きっと私の事を“とても優しい人だ”と思っていると思います。勿論今はそうだと思いますが、先生から指導を受ける前の私は、決してそう言えるような人ではありませんでした。

　自分の人間性の未熟さを棚に上げ、人間嫌いで人間不信を抱いていました。下澤先生に「人間なんて生きる価値がない、滅んだ方が地球には良いんじゃないのか」と、食ってかかった事もありました。

　でも、その考えを打ち砕く人間の本当の優しさを私に見せ、教えてくれたのは下澤先生でした。もし私の人生の中で、この出来事がなければ、難解な下澤先生の技術を身につける決断をする事はなかったでしょう。

　マニュアルのないシモザワ整体の技術を教わり始めた頃から、先生から施術者には“やさしさ・素直さ・謙虚さ”が一番大切だと教わりましたが、それよりも目先の技術に意識が行き、それがとても重要だとは考えられませんでした。

 

　そんなある日の事です。

　膝関節が変形し、真っ直ぐには伸ばせなくなっている重度のひざ痛のクライアントが来院しました。この方は重度の糖尿病も患っており、体は浮腫み、指先はパンパンになる程でした。その方の施術には、私もお手伝いをさせてもらったのですが、施術というよりは筋肉に運動したと同じ効果をさせるようにしていく事をしたのです。私にさほど技術がなかったのもあると思いますが、けれどもそれが一番効果的な方法ではありました。

　目一杯の力で汗だくになりながら、浮腫みと極度の運動不足で全く動かなくなった筋肉を動かし、ある程度動くようになってから、先生が細かい調整を行いました。

　先生も汗だくになりながらまだ動きが不十分な筋肉を動かし、体の内部まで気で感じていくのでクライアントの気を受け、疲労とダメージは目に見える程で、時には施術後にトイレで吐いていた事もありました。

 

　こんなに大変な思いをして、歩けない程の膝痛を、施術後には歩いても痛くない程良くしているのに、運動不足が原因だから運動をすれば良くなる事も伝えているのに、クライアント自身に努力する気は全くなく、「ここに来れば痛くなくなる」程度にしか考えておらず、特別先生に感謝の意思を伝える事もなかったのです。

　何回目の施術の時だったでしょうか、その方が何時もより体が酷い状態で来られた時です。

　私は何時ものように汗だくになりながら施術をしていて、ふと心に「この人運動すれば良くなるのに、運動するだけで私や先生がこんな大変な思いをしなくても良くなるのに」と怒りにも似た感情が出てきました。

　この時の下澤先生の体調は優れず、いつものように施術を行えば、体調がさらに悪くなる事が分かっていた私は、この感情を抑える事が出来ませんでした。

　先生に施術を交代してからも、「この人にそこまで身を削る必要はない、手を抜けばいいのに」と思って見ていましたが、先生は手を抜くどころか何時もより酷いクライアントに対し、どうすれば歩けるほどに改善するのか、真剣に手を尽くしたのです。その姿は、自分の体の事情を一切無視した、クライアントに対する１００％のやさしさ以外の何物でもありませんでした。

 

　その姿を見た私は感動し、そして自分の心の醜さを知り、裏でこっそり泣きながら、「先生の技術を身に付ける事は先生の意識まで身に付けなきゃならない、こんな感情を抱かない人になろう。」と、決意したのです。

　この出来事がきっかけで、私がやさしい人になろうと努めるようになってから、施術者に何故“やさしさ・謙虚さ・素直さ”が必要なのかと、その重要性も分かるようになってきました。

 

　マニュアルのないシモザワ整体の施術は、毎回新しい事を発見していくようなものです。自分の感情や事情を入れず、相手を一番に考えられるやさしさこそが、その発見の力の源になるのです。

 

　他にも分かるようになった事があります。気功教室の生徒やクライアントに、下澤先生がとても厳しい事を言う時がありますが、それも、「そう言う事で言われた人の意識がこう変わり、行動がこう変わると良い方に向かうから」と、表面的には酷く聞こえても、根底にはとても優しい先生の姿があるという事です。

　知れば知る程、分かればわかる程、先生の整体や気功の技術やノウハウは、全てやさしさがあってこそなのだと、感じてならないのです。

 

　これらは、私が「本当にやさしい人になろう」と努めるようになってから分かってきた事です。きっと私が、本当にやさしい人になれたレベルに応じ、そのレベルのやさしさが分かるようになったのだと思います。そして、そのやさしさレベルから生み出される技術も分かるようになったのだと思います。

　意識の事は、言葉で全て説明するのは不可能だと思うのですが、少しでも知って頂きたくて、私が感じた事を書いてみました。