〈“揺らす”だけでもかなり違うのです パート②〉

 

 新人のすけちゃんが、先生の指導の下、揺らす施術を練習していた時のことです。


 この日の練習台は、身長170センチくらい、体重70キロくらいの、はっきり言うと太った大柄な女性です。もちろん足も太い。その足のモモの筋肉を掴み、筋肉を揺り動かす練習です。

 筋肉を揺らすといっても、足全体が揺れるほど揺らさないと、モモの筋肉全体は揺れません。

 すけちゃんが、必死に歯を食いしばり、頭からボタボタと汗が垂れるほど揺らしても、練習台の足の状況は全く変わりません。腕がパンパンになり、もう揺らせないとなっても、少し筋肉が緩んだかな? 程度の効果しか出せません。


 ここで先生が、すけちゃんに一言指示しました。

「うどんの生地を伸ばすように揺らしてごらん」

そしたらどうでしょう! それまで変化の無かった強靭な太ももが、まるでうどんの生地が伸びるようにスルスルと伸びていったのです。


これには、やっている本人はもちろん、練習台の人や周りの見物人もビックリ! 何分かけてもほとんど変化のなかった太ももが、瞬時に誰が見ても分かるほど変化したのですから。

 「スゴーイすけちゃん!一気に上手になったねー!」と、周りも大感激です。


 イメージするって大切なんですね、これですけちゃんも揺らす施術が上達するね! と、言いたい所ですが、残念ながら私にはそうは見えませんでした。

私にはすけちゃんがいきなり上手になったのではなく、まるで“下澤先生”という名ドライバーが、レース経験の無いすけちゃんの運転する車でナビをしたら、いきなり難コースを信じられないタイムでゴールしたように見えたのです。

 

 これだけでは何の事を言っているのかさっぱりだと思いますので、私から見たイメージを補足してお話ししますね。

 

 体はまるで、いろいろな路面状況が混合する難コース場で、その中を力が連動という形で走っていきます。路面状況(部位と筋肉状態)が変われば、力の走り・動きも変わります。砂利道とアスファルトと雪道では、同じように運転しても、車の動きが変わるのは解りますよね。

 しかも普通のコースと違って、走れるコースがはっきりしていない上に、走れない所、行き止まりの所も沢山あるという、ゴールに辿り着くのも困難なコースなのです。もちろんコースは真っ直ぐとは限らず、どこが力の走るコースで、何処が力の走れないコースなのか、その見極めがとても難しいのです。


 ただ太ももを揺らしていても、力は行き止まりにぶつかればそこで止まってしまいます。足全体が動いているように見えても、それはコース場全体を動かしているだけで、力がコースを走っていなければ、筋肉同士の連動は無く、力はゴール出来ないのです。


 そんな難コースに挑んでいるすけちゃん。すけちゃんは自力ではゴール出来ませんでした。

そこで、先生はすけちゃんの隣に乗り込み、コースに出たのです。


指示をする相手はレース経験のない素人。経験のある人であれば、どっちの方向に何度のコーナーで、その後のストレートがどのくらいで、その後に段差があってと、コース内容を教えれば、あとはドライバーのテクニックと経験で、最速で最善のラインを読み、走ってくれますが、「何度のコーナーってどのくらいですか?」と聞いてしまうような、素人のすけちゃんにはそうはいきません。そのコーナーをどのタイミングと強さでブレーキを踏み何キロで進入し、どのタイミングと角度でハンドルを切り、どのタイミングで再びアクセルを踏めば早くコーナーを走れるかなんて知りませんし全て指示されたとしても出来ません。


おまけに素人のすけちゃんは、自分が運転している車がどんな運転をすればどういう動きをするかも把握していないのです。どのぐらいの力(アクセルワーク)でどのくらいハンドルを切ればそのコース上を早く走れるのか、それも車によって違います。軽自動車とスポーツカーなら、同じようにアクセルを踏んでハンドルを切っても、同じ動きをしないのは、想像できますよね。


 そのすけちゃんに、コース内容を説明する以外の方法で、どのような指示をすればどんな運転をするのか、すけちゃんの考え方や性格まで完璧に把握し、練習台の足という難しいコースラインを完璧に読み、信じられない短時間でゴール! そのタイムは、私自信がやったとしてもとうてい出せない、下澤先生という名ドライバーだからこそ出来る、信じられないタイム=変化という結果なのです。

 

この説明で、すけちゃんが急に上達したのではなく、先生の、人の体も心も読み取る驚異的な力があってこその技だという事を、何人が理解してくれるかが不安ですが…。

 こんな説明しか出来なくてごめんなさい。