〈指先でも影響するのです〉

 

 

体は繋がっているのですと聞いて、「体だって陸続きだもの、そりゃ繋がっているでしょうね」と思った方、そんなユーラシアプレートみたいな話ではないんですよ!

一つ解りやすい事例がありますので、紹介します。

 

その方は、若い時に脊椎カリエスという、背骨が溶けるように破壊される珍しい病気にかかり、その時から激しい腰痛をかかえる事になり、腰が痛くなかった日は一日たりともないのだとおっしゃっていました。

来院された時には病気の進行は止まっていましたが、腰椎は溶けて、まるで餃子のようにくっついて固まり、まったく動かない状態だと病院で診断されていました。足の骨も大きく変形し、座った姿勢で踵が前を向いていて、歩くことはおろか、立ち上がる事すらも出来なくなるほどになっていました。

そのクライアントの何回目かの施術の時。先生は仰向けで膝を立てている姿勢でベッドに寝かせ、指の施術を行っていました。その方の手の指は、動かないほどではありませんが、変異が進み、細かい作業は困難な状態でした。

その時クライアントが「カリエスになってから、腰痛のせいで、仰向けで膝を伸ばして寝た事がない」と、おっしゃっていました。しかし、先生が指を施術するうちに、その膝がだんだん自然と伸びてきたのです。

膝があまりにも自然に伸びていったので、その方が膝が伸びている事に気付いていないと感じた先生が、「○○さん、膝、伸びてるよ」と言った瞬間、「えー!!」と、腹筋一発で飛び起き、自分の伸びた膝を見て驚いていました。「本当に伸ばして寝た事ないんだよ!」と。

私としては、指の施術で膝が伸びていった事にも驚きましたが、さっきまで仰向けの姿勢になるだけで、あんなに辛そうにしていたクライアントが、指の施術の間に、無意識に腹筋一発で飛び起きられる程、腰の状態が良くなっている事に、さらに驚きました。

 

指の施術で、そんな重度に変形した膝が伸びてしまうなんて、それこそ魔法や奇跡のような出来事です。

しかし、これが紛れもない事実です。理屈は解らなくても、可能だという事は確かなのです。しかも先生は、体のメカニズムを把握し、そうなる事が解っていて施術をしているのです。

指先の施術により、症状が改善した事実は、これだけではありません。他にも首の違和感がなくなったり、呼吸が楽になったり、背中の痛みが取れていったりと、ありとあらゆる場所に影響し、体に想像以上の変化をもたらします。「指先」という細かい部位に行われるわけですから、当然体にかかる力も動きも小さいものです。それなのに、効果は絶大です。

ただし、気をつけてほしいのが、小さい力での操作で、これだけ改善させられるという事は、逆に悪くもさせられるのだという点です。安易に指先を揉んだり動かすだけでは、改善はおろか、極端に悪化させる事にもなるのです。従って、指先の施術には他の部位を操作する時よりも、より正確な操作が要求されるのです。

先生曰く、「体のどこよりも、指の操作が一番難しい。」のだそうです。

指は、他の筋肉よりも筋肉反応が小さく、おまけに一番複雑な動きのパターンをもっていて、一番頻繁に使われるパーツだからだと、私は考えています。

今の所、先生の下で10年間学ばせてもらっている私でも、そのメカニズムと言いますか“解き方”はわかりません。指でも、もっと単純に他と関わり、ある程度単純に伸ばすだけでも効果が出る場合なら解りますが、前述のクライアントの方のように、複雑に、しかも大きく変形が入った体を指先だけで“解除”していくやり方は想像もつきません。

先生に見えている世界は、私に見えている世界よりも、もっと微弱で細やかな世界。まるで、体の中にある見えないほど細い線に通る微弱な電流を、体の隅々まで正確に察知するような、そんな世界なのかも知れません。