〈簡単そうに見えて簡単じゃない③〉

 

 下澤先生の元で整体を習い始め、私も10年以上が経ちました。おかげさまでこんな私でも、病院や他の治療院では解決出来なかったという、難しい症例の方達でも、大抵は対処出来るようにまでなってきました。

 しかし、体の問題の難しさ複雑さの限度はありません。世の中には困っている人苦しんでいる人も、私の手に負えないと感じる方達も、まだまだ沢山おられます。

 その方の問題が、自分の手には負えないと分かったそんな時、下澤先生に相談したり、施術を助けて頂いたりしています。

 

 その方は、まだ20代の若さで重度の腰椎椎間板ヘルニアで苦しんでいます。MRIの映像を見せてもらいましたが、椎間板の押し出しが神経の太さの半分程にまで達し、あまりの神経圧迫に医者も驚いた程です。診察をした医者の話によると、このような方の場合だと、手術をしても症状が軽減されないことが多いようで、手術はおすすめ出来ないと言われたそうです。もちろん痛みというかシビレはかなり強く、何をしていてもどんな体勢でもシビレを感じない時はないとおっしゃっていました。

 私が担当して施術を行っていましたが、体は変化していくものの、痛みやシビレの軽減はなく、次に来られた時には、完全に体が戻ってしまっていました。

 そこで、この事を先生に相談してみたところ、施術の最後の数分だけ見て頂ける事になりました。先生の施術は、多分第三者から見たら、私の施術と大差ありません。むしろ私の施術よりも、ソフトで簡単そうに見えるかもしれません。強い力を使う事は殆どなく、見た目は体をさすったり抑えたり、時には腕や足を持ち上げたりする程度です。

 ところが体は、私の施術の時とは比べ物にならない程、大きく変化していくのです。もちろん施術の効果も違い、私の施術では全く軽減しなかった痛みやシビレも、先生が最後の数分間だけ施術をするようになってからは、激しいものはなくなっていき、今では施術の後には全く感じないようになってきたのです。

 

 この方だけではありません。下澤先生が最後の数分間だけ施術をしてくれた方が、今まで何人もおりましたが、その方達全員にこのように、私の施術では有り得ない程の身体の変化や症状の軽減が見られたのです。

 見た目だけなら、先生が現れて、ちょちょいのチョイ! はい、どうですか~?

「体が軽い!楽だ!!」ってな感じです。

 

 「たとえ簡単そうに見えたって、難しい体の問題が解決するのなら、問題ないじゃないか」と思うでしょうが、実はこの簡単そうに見えるという事が、大きな問題を引き起こす時もあるのです。

 それはクライアント自身が、“私の体の問題は簡単に良くなる程度”と、勘違いしてしまうという事です。クライアントが簡単な問題だと思ってしまう事で、せっかく良くなってきた体を大事にせず、無理をしたり体が悪くなる事をしてしまったり、体を良くするための努力をしなくなってしまう事になるのです。

 どれだけ腕の良い整体師でも、クライアントが自ら体を壊す事を積極的に行えば、改善は難しくなりますし、難しい問題であればあるほど、日常の生活をどうすごしているか、日常の生活の中で改善のための努力をしているかが、改善の道への大きな違いになってきます。全てのクライアントではありませんが、このような勘違いをしてしまったクライアントは、必ず改善に手間取り、時間がかかってしまう事になるのです。

 

 下澤先生自身も、簡単に身体を良くしている訳ではありません。私には出来ない、すごい集中力でクライアントの体の問題を探し出し、その問題の解決のために最適で、なおかつピンポイントで正確な施術を行っていくのですから、たとえ数分であろうと、施術後の先生は私が見て分かるほど疲労してしまいます。問題が大きな人であればある程、その疲労度も大きいのです。

 先生の施術は、ミクロの違いを調整する感覚を持っています。目では見えない体の中を、細部まで探っていく行為は、驚異的な集中力を必要とします。

よくテレビ番組で、スゴ腕外科医の手術の様子が放送されますが、その手術をスコープ等を使わずに、感覚だけで行うと想像してみてください。実際とは少し違いますが、イメージ的には似ています。スコープを使わないと出来ない手術を、感覚だけで行うのは不可能だと普通は考えるでしょう。しかし、同じ事をスコープを使って拡大せず、正確に行っていき、不可能と思える事を確実に行っているのが下澤先生の施術です。そしてそれには、不可能と思える程の集中力が必要なのです。

 

 下澤先生の施術が、いかに難しい事をしていて、いかに難しい問題を解決しているのかは、施術をする立場である私にはよく分かりますし、明らかに次元が違うということも分かります。たとえ簡単そうに見える施術でも、体の難しい問題を解決出来るようになるまでがとても大変なのですが、それを全ての人に分かってもらうというのは、もっと難しい事のようです。