〈どうすればいいのかはクライアントの体に聞け〉

 

この言葉、実は私が昔、先生によく言われていた言葉です。

 

 シモザワ整体の独自の技術には、他の整体術にあるような、症状別のマニュアルのような物は存在しません。同じような症状が出ている方でも、根本的原因はそれぞれ違うからです。

 

 一番初めの頃は、一般的な整体術の知識や、症状別の技の進め方などを学び、実践していきますが、必ず「それでは改善しない」という壁に当たります。世の中に存在する症状別のマニュアルは、全ての人に当てはまる“万能”なものではないからです。

 

 そこで下澤先生から言われるのがこれ、「どうすればいいのかはクライアントの体に聞け」なのです。そしてここからが、マニュアルの無いシモザワ整体の世界が始まります。

 

 体に感じている自覚症状を、本人の口から聞いて施術は始まります。当たり前ですよね。この時に、「何処に不具合を感じているのか」を知り、そのマニュアルを元に、体全体にどんな事が起きているのかという事を、ある程度までイメージする事は誰でも出来ると思います。

 

 そこから施術を進行していくと、同じ施術でも、それに対する体の変化は千差万別です。体や筋肉の質の違いや筋肉量、勿論男女の差も出てきます。しかし、ただの個人差だけではない、原因の違いで出てくる差というのも存在します。これは、クライアントの訴えが体にどう表れ、施術により体がどう変化し、それによりクライアントの訴えがどう変化していくか、これらを丁寧に見て感じていかなければ絶対に分かりません。

 

 ここまでの話だと、何故「体を見る」ではなく「体に聞く」なのか、違いが分からないでしょう。実はこの「聞く」と「見る」とでは、施術者の施術に対して取り組む“意識”に大きな違いが出てくるのです。

 

 “体を見る”と意識してしまうと、自分の中にあるマニュアルなどで学んだ既成概念が強くなり、自分の知っている知識の中に当てはめようとしてしまい、体の小さな変化や反応を感知出来なくなってしまうのです。

 この意識だと、つい固くなっている筋肉を指圧の様に強く何度も押したり、曲がっている所を元に戻そうと、同じ施術を繰り返したりしてしまいます。

 その結果、力に頼ってしまうあまり、体が出している小さな信号にも気付かず、施術の効果も悪い結果が出る事になってしまうのです。

 

ところが、“体に聞く”という意識で施術を行うと、自然とクライアントの体の中から何かを感じようとします。

見た目など体の表面だけでなく、体の中の信号まで感知しようとするのです。

体からの信号は、小さい信号の単位は計り知れない程小さいです。多分ミクロの単位であれば大きい方になるでしょう。

それほどまでに小さい信号や変化を感じ取れるようになるには、常に自分の既成概念に捕らわれず、クライアントの体に聞くという意識で取り組む事が不可欠になるのです。

 

これを常に行い繰り返す事で、それまでに見えなかった力の伝達と、体に不都合を感じる変化を起こすメカニズムが、ある程度見えてきます。

小さい単位が見えてくればその単位の力の伝達や変化が、より小さい単位が見えてくればその小さい単位の力の伝達や変化が見えてくるのです。

 

 力の伝達だけではなく、体の不調や変異は、クライアントの意識や気とも繋がっています。この段階になると、私は触り程度しか分からないのですが、下澤先生はこの段階も網羅していますから、クライアントの体をパッと見ただけや、声を聞いただけでも問題が見え、数分で改善するという神業を成しえたりするのです。

 

この「聞く」という言葉には、概念を捨てて謙虚な意識で取り組めば、体の小さな変化や反応にも感知出来るようになるという、意識のマジックが秘められているのです。

 

 今までに、沢山の難しい症例の方達を改善してきた下澤先生でも、人の体にはまだまだ分からない事があると言います。そして常にこの“体に聞く”という謙虚さで、未だに毎日のように新たな発見や気付きを続けています。

おかげで私は、先生に追いつくどころか、毎日突き放される一方なのですが。