〈コリにはやさしく〉

 

 では、どうしたらコリを取って状態を良く出来るのか。

実は、体のコリにはコリの事情があるのです。コリコリに固くなっていたい事情です。その事情は、そのコリによって違います。

なので、まずその「事情」を察知して理解してあげられる広い心と技量が必要です。決して力ずくでどうにかしようなどと考えてはいけないのです。

 

 では試しに。胸鎖乳突筋(首の前側の筋肉)や僧帽筋上部線維(首の根本から肩関節にかけての筋肉)がこっている人がいたら、その人をベッドに座らせ、後ろからわきの下に膝を入れ、腕が少し持ち上がる程度に持ち上げ、僧帽筋上部線維を軽くつかみゆすったり、さすってあげて下さい。

無理やり動かそうとしたら駄目ですよ。あくまでも「やさしく」且つ「しっかり」です。

もし、コリの事情が「腕が重くて支えるのが辛いよ~」という事情であれば、弱い力でも短時間で筋肉はゆるんできてくれます。 

 この説明で「へ~納得」という人は誰もいないと思います(笑)

でももし、硬くこっている筋肉に対処する方法が「強い力でもみほぐすことでコリを取る」であるならば、こんな小さな力でコリが取れるはずはないでしょ?

コリにはコリの事情(原因)があります。その原因を正確に察知し分析できれば、弱い力でもコリを解除する事が出来るのです。

でも、それを察知するのがとても難しい。とても繊細な感覚を正確に察知しなければなりません。力でなんとかしようとする、力任せに押す、揉む、ということだけをしているうちは決して解らない、小さい力の筋肉反応も察知出来ないと、「何故その筋肉は固くなっているのか」という本当の原因までたどり着く事が出来ないのです。 

その筋肉反応は、どの位小さな力の反応なのかと言いますと、ベテランの手技療法家でも全く何も感じないと思います。先生から「これがそうだよ」と説明を受けても、全く感じとれないと思います。ごくまれに、手の感覚が敏感な手技療法家が感じ取れるかもしれないというのは、テレビの番組などで職人さんの特集があったときに耳にする、「指先の感覚だけで、ミクロン単位の誤差も解る」という、それに似ているといえます。

 ちなみに、先生もミクロン単位の違いは解るそうです。

 

 先生の施術を見学させてもらっている時、よく「ここの筋肉とバランスをとっているのはここの筋肉」と、想像も出来ない場所にある筋肉を操作している事があります。

何故その筋肉がバランスをとっているのですか?と、質問しましたら、「ここがバランスをとっているから」との答え。う~ん。

日を改めて、「先生はバランスをとっているとよくおっしゃいますが、どのように感じているのですか?」と、質問を変えてみました。

すると、先生はおもむろにその場にあった割り箸の端を持ち、反対の端を私に持つように指示し「こんな感じ。」と答えて下さいました。

私には小さすぎて解らない、体の中でおきている力の伝達や筋肉反応が、先生には棒で伝わる力のようにハッキリと感じられている。 

…この小さな力をハッキリ感じ取れないと、バランスを取っている筋肉の関係は解らないという事か?! 

この時に感じた衝撃はとても大きく、同時に気も遠くなりました。今でもハッキリ覚えています。

その後も私が、無意識に緊張した筋肉に対し、力で対応しようとしているうちは、小さな力の筋肉反応は解る事はありませんでした。「力で何とかしようとしない!」と、意図的に意識するようになってから、少しずつ解るようになってきたのです。