〈痛みは体の防御反応なのです〉

 

 

 私が中学生の時、ソフトボールで肘の腱鞘炎になった時です。

ボールを投げると右肘が痛くなるようになり、病院に行くと、腱鞘炎と診断されました。安静にしていましたが、なかなか治らず、痛みが軽くなってきても、ボールを投げるとまたすぐ痛くなっていました。

なるべく早く治りたいと思い、通った整骨院では、その痛い肘“のみ”を、温めてから揉んで治療していました。でも治療後は、冷やすためのシップをはり軽く固定するのです。

 ほとんどの整骨院では、これとほぼ同じ治療方法をとっているのではないでしょうか。他の症状でも、何軒かの整骨院に通った事がありますが、どの整骨院でも、どんな症状でも、温めてから揉み、終わったらシップを貼るという、同じ方法をとっていました。

 当時の私は、これが疑問でなりませんでした。

痛い所の筋肉を温めた方が良いのか冷やした方が良いのか、動かした(揉んだ)方が良いのか動かさない方がいいのか、どっちなんだろう? と。

全く違う原因で出た、全く違う症状に対して、全く同じ治療をする。しかも、一つの部位に対して、全く違う理論の治療を同時に行う。これを全く疑問に思わず施術を行い、それを疑問に思わず受ける人が大勢いる事を。

 

 その私の疑問を解決してくれたのが、下澤先生でした。

先生は、同じ病名、同じ症状の人であっても、全く同じ施術を行う事は決してありません。「同じ症状の人が100人いても、原因は100通りある」と考えるからです。

その症状が出るまでに至る、それぞれのプロセスと原因が必ず有る。体の大きさも形も、筋肉の質や筋力も、生活・習慣も何もかも違う人同士が、全く同じプロセスをたどり同じ原因で症状を出している訳がないと考えていたのです。

 先生の、個別に痛みの原因を追及していく下澤先生独自の体メカニズムの発想は、私から見たら、とても細分化された新しい発想であり、同時に「言われてみればそうだよね」と、目からウロコが落ちるものだったのです。

 その中でも基本となる、「痛み」に対する一般的な発想との違いを、ここではお話したいと思います。

 

 一般的には、痛みが出ている所が、血行不良や筋肉の強張り等、何らかの原因で問題を起こし悪くなっている。要は痛みを感じる所に痛みを出す問題があるから、それを神経が感じ取り、痛みを感じると考えます。

 たしかに、それは間違いではないと私も思います。ですが、“血行不良や筋肉の張りが、何故痛みが出る程悪化したのか?”という発想が、抜けているように思うのです。

 ただ筋肉が強張っていれば必ず痛みが出る訳ではありませんし、血行不良もしかりです。

実際、施術を行った事のある方なら解ると思いますが、ガチガチに固く緊張しているのに「全く痛みは感じない」という方もいますし、触られてから初めてそこが痛いのに気付いたという方もいると思います。血行に関しても、手足など部分的に冷たくなるほど血行が悪い所があっても、その部分に痛みを伴っている方は、あまりいらっしゃいません。

痛みが出るまでのプロセスに関しても、過激な運動や、体に大きく負担のかかる事をして痛みが出たなら、迷わずそこの筋肉が筋肉疲労等で痛みが出たと私も思いますが、特別な事は何もしておらず心当たりが無い場合は? 仕事が原因だとしても、同じ症状がある人と無い人の違いは? 高齢が原因だとしても、同じ症状がある人と無い人の違いは? 

私が感じる疑問を上げると切りがありません。

 個人差や体質の違いとおっしゃる方もいらっしゃるかと思いますが、それだけで片付けてしまうのは、少し乱暴な発想かと思います。

 

 では、下澤先生の発想ではどうなるでしょう。

 まず、痛みを感じている所だけが悪くなっているのではなく、痛みを感じていない所も含めて、総合的に悪くなっているのだと考えます。体を総合的に見た時に、痛みが出ている所に、痛みが出る程の負荷や負担がかかっているのだと考えるのです。

体は、動く時に動く部分の筋肉だけを動かしている訳ではありません。腕を上げる動作一つでも、一見動いていないように見える胸や背中の筋肉も同時に動き可動します。その動きに連動し、ごく小さな力の連動も含めれば、全身で「腕を上げる」という動きをしている事になります。

もし、痛みを感じる部分だけに痛みの問題があるのだとしたら、どんな動きをしてもその部分が痛くなると予想できますが、痛みが出る場合の殆どは、特定の動きや姿勢で痛みを感じます。痛みを感じる動き以外は、痛みを感じないのです。

ですから、その筋肉同士の連動や、捻じれや歪みでおきた、関節などの体の構造バランス的な部分も含めて、一連の動きのなかで、筋肉同士で起きている問題が痛みとなって出ている、血行不良や筋肉の強張りは、結果であって原因ではないと考えるのです。

 例えば、腰椎の椎間板ヘルニアの診断をうけた方の場合、腰椎が何らかの原因で潰れ、椎間板が飛び出し、その椎間板が神経に触り痛みを感じています。ですが、初期の段階だと常に痛い場合は少なく、前屈や後ろ反り等、特定の動きをした場合に痛みを感じます。こうゆう方の場合、背中や腰や臀部にとても強い筋肉の緊張が見られる方が多いので、つい「その緊張が腰椎を潰している」と思われがちですが、ここは一つ「もしかしたら、この緊張は潰れる腰椎を支え守る為の緊張で、潰れる原因は他にあるかもしれない」と考えてみて下さい。

 痛みを感じる動きをした時に、背骨全体の曲がりやS字の角度、骨盤から足にかけての角度や位置、全身の筋肉同士の引っ張り合いでの筋肉バランス等、総合的に見ていくと、潰れている腰椎の部分がつぶれる角度で体に力が入っていたり、逆にその部分が引っ張られ過ぎていたり、体全体での痛みの原因が見えてくるのです。

もう少しかみ砕いて表現しますと、痛みは「それ以上そっちに動かすと壊れてしまいますよ。」という体からの信号であり防御反応だと考えるのです。

 いわば、痛みが出ている所は、筋肉関係の不具合による結果=“被害者”であって、原因=“加害者”ではないのです。ですから、痛みが出ている所の血行不良や筋肉の強張りを解決できたとしても、加害者との問題を解決しない事には、またすぐ被害を被って痛みが出てしまう、という事になりかねないのです。