〈体は繋がっているのです〉

 

 

 体は繋がっていると言われると、当たり前のように聞こえますが、意外と皆さんこれを理解出来ません。

私が思いますに、今は現代医療の情報があまりにも多くて、どうしても部位に対する物質的なものも含めた変異だけで、原因を追究する考え方の方が、一般的には常識とされているからではないでしょうか。腰が痛くなれば腰が、膝が痛くなれば膝が、曲がっていたりずれていたり、骨がすり減っているから痛いのであって、他の痛くない所は、何も悪くなっていないと考えている方が、とても多いのです。

 でも、少し考えてみて下さい。家の扉がきつくなり、扉の端がすり減ってきても、扉だけが悪いとは考えないですよね。家全体に歪みが出ていると考えると思います。扉の端をさらに削り、動きやすくしても、またきつくなったり、違う扉がきつくなる事は、皆さん想像出来ると思います。根本的な原因として考えられるのは、家の地盤や土台が悪いのか、もしくは建物の強度不足などが原因か。ですよね。

 これを人の体に当てはめて考えてみると、最低でも1Gという重力の付加がかかった状態で、さらに建物とは違い常に動いている訳ですから、痛みが出た部位だけが変異をおこしていて、他の部位に変異がない方が不自然だということが解ると思います。痛みが出るほど変異している部位があれば、他にも変異している部位があり、変異を起こす原因が体全体にもあると考える方が自然ではないでしょうか。

 残念ながら、この説明は医療関係の方には、なかなか理解してもらえません。機械関係や建築関係の方の方が、スムーズに理解してくれます。特に、動く機械の開発などに関わっている方は、とても理解が早いです。機械力学や材料力学、構造力学では、あたりまえの発想だからでしょう。この考えなくしては、仕事は出来ませんからね。

 

 激しい腰痛で、元医大の教授が来院した時の事です。

 その方は、痛みが強くて一人では歩けず、奥さんに支えてもらわないとならない程の状態でした。お話によると、病院では原因がハッキリせず、治療も痛み止めの薬を飲んでいるだけのようでした。

 医療関係の方が来院された事は以前にも何度かあり、その時いらした方も、前述の考えをなかなか理解出来ずにいました。ですから、初めてこられたこの方が、腰部以外にも施術をする事を不思議に思うだろうと、下澤先生はいつもより細かく説明をしながら施術を進めていきました。「ココの部分がこうなっているから、腰の負担が大きくなっている」「ココの筋肉がこうなっているから、ココをこう操作するとこっちがこうなって、腰の角度がこう変わる」とか、普段ならここまで説明しないという程、細かく説明していったのです。さらに、「ココがこう変化していくと、ほら、さっきよりも腰の痛みが減っているでしょ?」と、施術の途中でも、痛みの度合いを確認してもらったりもしていました。

 説明を受けているクライアントは、いくら説明されても、理解というか納得がいかない様子で施術を受けていましたが、施術後には、来た時よりも腰の痛みが軽減されているのは明らかだったようでした。数日続けて通い、施術に対して納得がいかなくても、どんどん痛みが軽減していく現実は無視できないようで、腑に落ちない表情で「体は繋がっているのですね」と、納得はいかないが、あなたが言った通りの結果が出たので、そう言わざるを得ない感たっぷりに言い、一人で歩いて帰っていきました。

 私としては、普段は聞けない程の細かい説明をしながら施術が進んでいったので、何を目的に、何をしているのか全く解らない所について、少し理解が進み、先生の見えている世界に少し触れられ、とても良い経験になりました。けれども医療関係の方には、施術の内容について理解する、納得するだけでも、とても困難なのだという事を思い知った出来事でもありました。