〈分かるという事は出来るという事〉

 

ここで一度、整体の話からは少しはなれますが、説明しておきたいことがあります。

今まで技術的なお話をメインにしてきましたが、これらの事を言葉だけで表していくには、実は不可能と言って良い程困難です。言葉というものには奥行きがあり、同じ一つの文章でも、読む人の読解力はもちろん、経験や人間性のレベルと言いうか、その人自身の奥行きの違いで、解釈にも違いが出てくるからです。さらに、言葉には限界があり、言葉では絶対に表現・説明が出来ない世界があるのです。

しかし、その事を理解出来ない人が、特に現代人にあまりにも多いのが現状です。現代の学校教育がそうさせるのでしょうか…。言葉で聞いただけの事や、読んだ事に対して、自分がそこから解釈・理解出来た事が全てだと思ってしまうのです。この傾向は、残念ながら高学歴の方ほど多いように感じます。

 

この「分かるという事は出来るという事」という言葉は、シモザワ整体はもちろん、下澤先生が指導している慧真導気功術でも、絶対的な教訓の一つです。

 先生が言葉で教えて下さったり見せて下さった事を、本当に理解したかどうかを、“出来るかどうか”で検証するということです。同じ事が出来れば、理解した裏付けになりますし、出来なければ、何かが足りなかったり、解釈を間違えていたり、能力不足であったり、そもそも根本的に間違っている等、必ず原因があるという事です。

 しかし、これを実行しようとする方は、生徒の中でもなかなかおりません。先程も触れましたが、先生が実践して見せてくれる事は、見た目はすごく簡単なのに、実際にやってみようとすると、難し過ぎて自分の理解の範囲を完全に超えてしまうのです。あまりにも超えているので、何が足りないとか何が間違っているとか、原因すら全く見当が付かなくなってしまい「先生が特別だから、先生にしか出来ない」と、出来ない理由を無意識に自分の中で正当化する事を選んでしまう程です。

 

 ですが私は、出来ないなりにも、“出来るかも知れない”と考えられるようになった出来事がありました。

 先生が私や生徒に、何時も繰り返し同じ説明をして教えてくださっていた言葉がありました。随分昔の話なので、それが何の言葉だったかは忘れてしまいました。

 その頃の私は、その言葉を自分なりに解釈し、それが全てだと思っていた現代人の一人でした。しかし、言葉の意味は理解出来ますが、先生が言わんとしている事が、いまいちピンときません。仕方ないので、丸暗記のように、その言葉そのままを自分の中の教訓の一つにしました。その時の私の解決策は、それしか持ち合わせていなかったからです。

 そんなある日の事。何かをきっかけに、いきなりヒラメイタのです。ただ丸暗記のように記憶していた先生の言葉の中にある、先生が言わんとしている意味を。その言葉の中にある意味は、私がそれまで解釈していた意味とは全く違い、もっと深い意味があったのだと気付いたのです。意味は似ていても、解釈の違いがその先の運命というか、方向性を大きく変え、全く違う意味になるという事を。

 「そうだったのかー!」私は今までピンと来なかったことが納得でき、分からなかった謎が解けた喜びと同時に、周りの生徒も私と同じ間違いをしていると焦りました。この解釈の違いが、運命を変えるのです。間違ったままでは、その人のこの先が変わってくる、なんとか私の気付いた事を伝えなくては。

 そう思った私は、仲の良い生徒に、今の解釈は正確ではない事をなんとか伝えようとするのですが、説明するために出てくる言葉は、先生が何時もお話する言葉と、同じものしか出てこないのです。私の中では、今までと全く違う意味なのだと言おうとしても、出てくる言葉は同じ。

 もちろん聞いている人も「うん、分かっているよ。何時も先生がおっしゃっているもの」と、今までと同じリアクション。私がいくら「いや、違うんだよ、そうじゃないんだ」と言っても、聞いている人には、今までと全く同じにしか聞こえないのです。その時初めて、これが「私自身の奥行きが広くなった」ということなのだと気付きました。

 

この経験から、先生がおっしゃっている「言葉の奥行き」や「その人自身の奥行き」というものを、知る事が出来たと同時に、今まで先生以外の人には不可能だと思っていた事も、不可能に感じる自分に全て原因があり、もしこの奥行きをさらに広げる事が出来れば、可能になるのではないか、先生が何時も私たちに見せて下さる事は、「努力次第ではこんな事も出来るのです」と言っているのだと、考えを改める事も出来たのです。

 皆さんも是非、この「分かるという事は出来るという事」という方程式に当てはめ、いろいろと実行してみて下さい。きっと“分かったつもりの自分”や“思った以上に小さい自分”に出会えると思います。そして、今の自分が改善しなければならない問題が見えてくると思います。